【感想】鬼人幻燈抄 1 葛野編 水泡の日々(作:中西 モトオ)
あらすじ
江戸時代、山間の集落・葛野には「いつきひめ」と呼ばれる巫女がいた。
その巫女の護衛役である青年・甚太は、集落一番の剣士として巫女の命を狙う鬼どもを討伐する日々。
しかし、異能を持つ二体の鬼が現れたことで日々は一変することになる。
感想
『鬼人幻燈抄1 葛野編』は鬼との戦いの中で繰り広げられる愛憎劇の物語です。
少年・甚太は父から虐待を受けていた妹・鈴音を連れて放浪していたところ、謎の剣士と出会う。彼の導きによって集落・葛野に辿り着いた甚太は、剣士の娘・白雪に一目惚れする。
時は流れ、主要人物が大人になってからが本編。
白雪は集落の信仰対象である『いつきひめ』と呼ばれる巫女となり、甚太はその巫女守の任を受け、忍び寄る鬼を討つようになっていた。
しかし、鈴音はなぜか成長せずにいつまでも子供の姿のまま。さらには異能を持つ鬼も集落に忍び寄り……と不穏さを漂わせます。
元々はWeb小説の作品であり、この第1巻は長いストーリーの序章に当たる内容となっていました。
感想としては、
- 剣士と怪異が戦う和風ファンタジー
- 江戸時代設定でありながら読みやすい現代的言い回し
- 戦いよりもキャラクターの愛憎劇に焦点が当たっている
といった印象を抱きました。
思うところ
ただし一方で、以下のような感想も抱きました。
- 時代小説成分の薄さ
- キャラクターの薄さ
- 読後も多く残る疑問点
1. 時代小説成分の薄さ
読みやすい現代的言葉遣い、そして『山間の集落』という社会から隔絶された舞台設定のため、江戸時代感は摂取できません。
次巻のサブタイトルが『江戸編』となっているので分かりませんが、少なくともこの巻においては時代小説成分を求めて読むと期待外れとなるでしょう。
2. キャラクターの薄さ
キャラクターの特徴が全体的に薄かったように感じました。
口調や言い回しといった表面的なものもそうですが、会話の内容が『子供の頃は自由だった』『大人の今は事情が変わった』でほとんど占められており、それ以外の情報がほとんどなかったからかと思います。
(悪役の感情がより描写されているゆえに主役が薄く感じるパターン。この作品の場合は長の息子がそれ)
3. 読後も多く残る疑問点
この『葛野編』は『鬼人幻燈抄』という壮大な物語の序章であろうことを踏まえても、
- 続巻にて展開される謎なのか
- ただ単に描写が欠落しているのか
判別つかない疑問点が多く残されています。
前巫女守である白雪の父は鈴音の正体に気づかなかったのでしょうか。気づいていたのであれば、なぜ葛野に連れ帰ったのでしょうか。
時が過ぎても成長しない鈴音、つまり鬼と思しき者を、古くから鬼と戦ってきた葛野の人々はなぜ受け入れたのでしょうか。
鬼との戦いで命を落とす前巫女守ですが、作中で何かを憎んでいる描写のない人物がなぜあんな遺言を残したのでしょうか。
また、甚太の前に現れる異能の鬼たちは『鬼神』を降臨させることが目的と自ら語ってくれるのですが、ここでも疑問が生まれます。
鬼神となる者が鬼と化してしまう原因は、集落での痴情のもつれです。そこに鬼は何一つ干渉していません。
現場を見せつけることを干渉したと言うのならそうかもしれませんが、それって結局、遅かれ早かれ当事者に発覚することですよね?
わざわざ鬼たちが姿を見せて戦わずとも、悲願とやらは成就されていたのではないでしょうか。
はっきり言って、この物語の『悪』は集落の長とその息子です。
集落で権力争いが起きているわけでもなく無意味に身内贔屓をして、鬼との戦いとは無関係に取り返しのつかない事態を引き起こしてしまったのですから。
そうなった後で『罪悪感もあったんですよ』と言及されたところで、どの口でとしかなりません。
先述の通り、序章であることを踏まえても提示されただけの謎があまりに多く、これからの期待よりも不満のほうが上回ってしまった、というのが私の正直な感想になります。
(結末だけが決まっていたor結末に向けて積み重ねが足りなかったように感じる)
要点
和風ファンタジーな愛憎劇
江戸時代設定ながら現代的言葉遣い
文体・キャラクター共に良くも悪くもフラット
ストーリーに多数の疑問点
良くも悪くも長編物語のプロローグ
備考
Web小説より書籍化
2024年夏、アニメ化予定
- 2025年予定に延期 kijin-anime.com